きゅうすの初心者落語傾聴

主に古今亭志ん朝師匠の落語を聞いた感想を書きます。

古今亭志ん朝「お直し」客引きと花魁の廓噺

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 祖母の家に行くと仏壇にお線香をあげることが慣習になっています。ろうそくにマッチで火をともし、お線香を立てて鐘を鳴らして(「おりん」って言うそうです)、手を合わせる。子供の時からやっていますが、お線香をあげるたびに自分のご先祖にいろんな報告ができるような気がして心が落ち着きます。あのお線香の香りも結構好きです。

 江戸時代の遊郭ではお線香を使った本数で料金が決められているところもあったそうです。今回はそのような遊郭が舞台の「お直し」の感想です。

 

 現代でも職場恋愛というものは存在するようで(私は無縁)、そのような形で出会い結婚までいった知り合いもいます。ただ職場恋愛で心配なのが、周りの人にばれてしまったらということです。人間関係の悪化や、妙な噂を流されてしまうなど数えきれないほどのリスクが付きまとうことでしょう。しかしそれでも恋というものは止められないものなのかもしれません。この「お直し」という噺も職場恋愛に通ずるものがあると思います。

 近頃お茶を引いている花魁が、客引きの若い衆に優しくされたことでお互い気持ちが近づいていき、男女の仲になるところから始まります。最初は隠れて逢瀬を楽しんでおりましたが、そこは長年男女を見ている旦那のことです。勘のいい旦那にすぐにばれてしまいます。しかしこの旦那の裁量で二人は夫婦になり、今まで通り店で働かせてくれることに。しかし旦那はバクチに手を出し店を休みがちになってしまいます。店にもいられなくなりとうとう女郎屋の底辺「けころ」で店をやることになります。この「けころ」で店をやることを提案したのは亭主ですが、最終的には女房のほうが強気に出て亭主をけしかけるほどに。志ん朝が演じる強気になった女房は聴いていて気持ちがいいですね。店を開けてその日に一人の酔っぱらいが入ってきます。昔は人気のあった花魁ですから、女房は言葉巧みにその酔っぱらいを中に引き込み虜にさせてしまいます。しかし亭主はその様子が気に入らず、何度も「直してもらいなよっ!!」と声を荒げます。そのあとの夫婦のやり取りは非常に人間味があり、この二人は出会うべくして出会ったんだなあと感じさせます。

 

 その後は酔っぱらいと亭主の立場が逆転してオチとなります。私は志ん朝が演じる夫婦がとても好きで、理想の関係の時もあれば反面教師にしなければならない関係もあります。この「お直し」はそのどちらの関係も含まれている面白い噺でありました。