きゅうすの初心者落語傾聴

主に古今亭志ん朝師匠の落語を聞いた感想を書きます。

古今亭志ん朝「佐々木政談」うまいしゃべりで大出世!

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 少し前に日光東照宮に行ってきました。別名「日暮門」ともいわれる「陽明門」、見ざる聞かざる言わざるの「三猿」、平和の象徴「眠り猫」と有名な場所を一通り周りましたが、特に印象に残ったのは薬師堂の「鳴き龍」ですね。今では鳴き龍の下で手をたたくことは禁止となってしまったそうですが、案内のお兄さんが拍子木で龍が鳴くところと鳴かないところで違いを説明してくれました。部屋全体に音が響くときには思わず感嘆の声が漏れるほど感動してしまいました。

 

 さて、東照宮徳川家康を祭っているということでもちろん「三つ葉葵」の家紋が至る所にあるわけですが、「丸に四ツ目」の家紋が出てくるのはこの噺「佐々木政談」の感想です。

 

 

 政談ものといえば「唐茄子屋政談」、「三方一両損」、「大工調べ」あたりは聞いたことありますが、まだあまり多くの落語を聞いていない私でもお奉行様が裁く噺は登場人物の誰が話しているのかが分かりやすく、結構好きかもしれません。その中でも今回の「佐々木政談」では志ん朝のなまいきな子供役がたっぷり聞けます。

 聴いていて楽しかったところは南町奉行佐々木信濃守と白ちゃんの知恵比べ。こんなうまい返しができれば私も出世が早いかしら・・・。特にまんじゅうを二つに割って「どちらが美味しいですか?」のところは白ちゃんの親思いな感情が見えてほっこりしました。また、お奉行ごっこをしていたときの子供たちのやり取り。言葉の言い回しや役の使い分けで、本当に江戸時代には子どもたちがこういう遊びをしていたんじゃないのかと感じてしまうほどのリアルさがありました。

 

 桶屋のなまいきなせがれがお奉行様に認められ、出世をする噺。まさに憎まれっ子世に憚るといったような一席でございました。

 

上野の鈴本演芸場に行ってみた!

 

 


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 先日、初めて上野にある鈴本演芸場に行ってきました。

地図を見ながら場所を探しているとき、隣のすしざんまいのあの社長に気を取られているうちに一度通り過ぎてしまいましたが・・・

これで東京にある4つの定席はようやくすべて行くことが出来ました。

当日の番組がこちら☟

 

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 昼の部を見てきました。主任は遊亭歌武蔵師匠。あの最初のつかみはわかっていても笑ってしまいます。また、四代目三遊亭圓歌師匠の漫談や圓太郎師匠の「小言念仏」、歌奴師匠の宮戸川などまだまだ落語を聞き始めてから日も浅い私でも大いに楽しめました。

 今回印象に残っているのは見た古今亭文菊師匠と、桃月庵白酒師匠

どちらも初めて見てみましたが、文菊師匠は出てきた瞬間に「品がある!」と思いました

何と言いますか様子が整っていて語り口も実に上品であり、座っている姿に華やかさがある落語家さんだなと思いました。こういう方がやる落語の女性役はほんとにうまいですねー。

桃月庵白酒師匠は正統派!という印象を受けました。声もはっきり通りがよく、あたりまえですが「落語を聴いてるなー」と感じ、また聞いてみたいと思いました。

 

 これで東京の4つの寄席にはいったわけですが、まだ国立演芸場には行ったことがありませんので、また時間があるときに行ってみたいと思います。

 

古今亭志ん朝「そば清」ちょっと怖い?

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 ここ最近毎週のように蕎麦屋に行っております。今までは蕎麦よりうどんのほうが好みだったのですが、この歳になってようやくお蕎麦のおいしさが分かったような気になり、いろんなお蕎麦を食べたいと思って近所の蕎麦屋を片っ端から食べています。

 落語といえば「蕎麦をすする仕草」が有名ですが、この落語を聞いた時はたらふく蕎麦が食べたいなと思ってしまいます。今回はそんな落語「そば清」の感想です。

 

 YouTubeにもあがっている志ん朝のそば清ですが、その枕が大変面白く興味深いです。志ん朝のお兄さんの十代目金原亭馬生師匠の七回忌の話から始まり、話題があっちこっちと脱線します。聞いているとああこれは間違いなく酒に酔っているなという感じが伝わってきて非常に珍しい動画です。

 噺の内容は蕎麦賭けが流行っていた江戸時代、蕎麦屋の常連と「お蕎麦の清兵衛さん」の賭け勝負はどうなるかというものです。最終的にこのお蕎麦の清兵衛さんが信州から持ち帰った草は、消化を助ける効果があるのではなく人間を溶かしてしまう草で、蕎麦が羽織を着ていたというオチなのですが、最初に聞いた時ゾッとしたのは私だけではないはず・・・。

 

 しかし、酒に酔っていながらも噺の内容に入ってしまうと見事にそば清を演じきる志ん朝師匠はやっぱりすごいなあと感じてしまいました。蕎麦を美味そうにたぐる清兵衛さんを見ていると今すぐに蕎麦を食べに行きたくなるお話でございました。

 

古今亭志ん朝「お直し」客引きと花魁の廓噺

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 祖母の家に行くと仏壇にお線香をあげることが慣習になっています。ろうそくにマッチで火をともし、お線香を立てて鐘を鳴らして(「おりん」って言うそうです)、手を合わせる。子供の時からやっていますが、お線香をあげるたびに自分のご先祖にいろんな報告ができるような気がして心が落ち着きます。あのお線香の香りも結構好きです。

 江戸時代の遊郭ではお線香を使った本数で料金が決められているところもあったそうです。今回はそのような遊郭が舞台の「お直し」の感想です。

 

 現代でも職場恋愛というものは存在するようで(私は無縁)、そのような形で出会い結婚までいった知り合いもいます。ただ職場恋愛で心配なのが、周りの人にばれてしまったらということです。人間関係の悪化や、妙な噂を流されてしまうなど数えきれないほどのリスクが付きまとうことでしょう。しかしそれでも恋というものは止められないものなのかもしれません。この「お直し」という噺も職場恋愛に通ずるものがあると思います。

 近頃お茶を引いている花魁が、客引きの若い衆に優しくされたことでお互い気持ちが近づいていき、男女の仲になるところから始まります。最初は隠れて逢瀬を楽しんでおりましたが、そこは長年男女を見ている旦那のことです。勘のいい旦那にすぐにばれてしまいます。しかしこの旦那の裁量で二人は夫婦になり、今まで通り店で働かせてくれることに。しかし旦那はバクチに手を出し店を休みがちになってしまいます。店にもいられなくなりとうとう女郎屋の底辺「けころ」で店をやることになります。この「けころ」で店をやることを提案したのは亭主ですが、最終的には女房のほうが強気に出て亭主をけしかけるほどに。志ん朝が演じる強気になった女房は聴いていて気持ちがいいですね。店を開けてその日に一人の酔っぱらいが入ってきます。昔は人気のあった花魁ですから、女房は言葉巧みにその酔っぱらいを中に引き込み虜にさせてしまいます。しかし亭主はその様子が気に入らず、何度も「直してもらいなよっ!!」と声を荒げます。そのあとの夫婦のやり取りは非常に人間味があり、この二人は出会うべくして出会ったんだなあと感じさせます。

 

 その後は酔っぱらいと亭主の立場が逆転してオチとなります。私は志ん朝が演じる夫婦がとても好きで、理想の関係の時もあれば反面教師にしなければならない関係もあります。この「お直し」はそのどちらの関係も含まれている面白い噺でありました。

 

古今亭志ん朝「酢豆腐」知ったかぶりにはご注意を

 

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 今回はたまたまスーパーで見かけた麦とホップの黒を飲んでみました。どちらかというと私は普通のやつのほうが好みですが、たまには違った味わいのものを飲んでみたくもなります。つまみには肉豆腐を作ってみました。まあ豆腐と肉を煮るだけなんで大したものではないのですが、これがなかなか美味しいものです。

 豆腐を食べるときに毎度思い出してしまうのは、やはり酢豆腐という落語です。今回はこちらの演目の感想を書きたいと思います。

 

 落語を聞き始めてからまだ日も浅く、まだまだいろんな噺を聴いてみたいと思っておりますが、落語の演目というのは漢字が読めないものがあったり名前だけでは内容がほとんどわからないものがあります。漢字が読めないものは「文七元結(ぶんしちもっとい)」や「火焔太鼓(かえんだいこ)」などが初めはわかりませんでした。(単に私の教養がたりないだけかもしれません)今回の演目「酢豆腐」は内容も想像できず、そんな食べ物があるのかと本気で思ってしまったお話です。志ん朝のCDでも聞きましたが、こちらの演目は映像で見たほうがより楽しめる噺だと思います。

 

 町内の若い衆が集まって暑気払いに一杯やろうというところから始まるこのお話。これだけ大勢の人物が出てきても、志ん朝が演じるとそれぞれの話し方やしぐさで誰が話しているかがとても分かりやすいです。若い衆一人一人の性格まで伝わってくるようで、見ていると本当に江戸の町に来てしまったのかと錯覚します。さて半公を騙して銭をとった若い衆たち。おなじみの与太郎がまたもやらかしますがこれが「酢豆腐」の鍵となります。この先は横町の若旦那と新ちゃんのやり取りが続きますがここからが見所です。

 

 与太郎がしくじって腐らせた豆腐を(豆が腐ると書いて豆腐なのに腐るとはこれいかに)若旦那に食べさせようとおだて始めます。そこで腐った豆腐を見せると若旦那「まあよくそれが手にはいったねえ♪」と知ったかぶり。そこから若旦那が腐った豆腐を食べますがこのシーンは顔芸といっても差し支えないでしょう!本当に腐った豆腐を食べているみたいです。最後は扇子であおいでどうにか飲み込みます。そして酢豆腐と名前を付け最後には酢豆腐は一口にかぎります・・・」と逃げます。知ったかぶりもここまでくると見事ですね。ある種教訓になるようなお話かもしれません。終始笑っていられる陽気な演目で大変面白かったです。

 

 余談ですがこの横町の若旦那、「羽織の遊び」にも「こんつわー」と言って登場します。キザで憎たらしい志ん朝の若旦那大好きです。

 

古今亭志ん朝「明烏」草食系男子を連れ出そう

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 知人は毎年年末になると、友人とともに飛田新地に赴くそうです。私は行ったことはありませんが、知人の話を聞いているとああ一度は訪れてみたい場所だなあとしみじみ感じます。ストレス発散やちょっとした楽しみを作るためにも、非日常を体験するということは大事なんじゃないかと思います。

  飛田新地のような歓楽街は全国各地に存在していますが、その中でも有名なのが吉原ではないでしょうか。落語の中にも吉原が舞台の演目が多くあります。今回はそんな吉原が舞台の明烏の感想です。

 

 日本橋田所町日向屋の若旦那の時次郎は親も心配になるほどの堅物。そんな息子を見かねた親父は町内の源兵衛と太助に頼み、吉原に連れて行ってくれるように頼むというお話です。この噺の面白いところはやはり堅物な時次郎が吉原だと分かった時の慌てぶりでしょうか。私が最初に聞いた時にはオチを聞いた時にうーんなるほどとうなってしまった落語でもあります。

 

 この噺に出てくる時次郎、冒頭から非常に堅物というのがわかります。本を読みすぎて頭が痛くなるとか、初午に行って子供と遊び酒も飲まずにおこわを三杯食べるだとか、「いい若えもんのすることじゃねえや」と親父が言うのも仕方ありません。また、父親に騙され源兵衛と太助とともに吉原に行こうとするときには、父親に習ったこと(酒の席の付き合い方や勘定の仕方など)を全部しゃべってしまいます。しかも源兵衛と太助に直接「あなた方は町内の札付きだ、後が怖い」と親父の言葉そのまま言って二人も面食らってしまいます。

 

 酒も飲みようやく吉原についてもまだ自分が騙されているとは気づかない時次郎。花魁の姿を見てようやく気付きます。ここは吉原というところでしょう!書物で読んだことがございます!」と慌てだす。ここでも堅物ぶりがみて取れますね。このあとの兵衛と太助が時次郎を説得するシーンでこの噺のオチにつながる会話が登場します。ここを覚えておいたからこの演目を最初に聞いた時に、オチがよくわかり非常にきれいな落語だと思うことができました。

 

 いやいやだった時次郎も最後には花魁のとりこになってしまいます。私も時次郎のような現代でいう草食系ですが、この噺の源兵衛と太助のような人が現代にも必要なんじゃないかなあと思いました。やっぱり女性というものはいいなと感じる一席でありました。

 

古今亭志ん朝「文七元結」人情噺の大ネタ

 

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 先日オートレースを見てきました。スピード感のある迫力のバイクレースは生で見ると面白いですね。日本には3Kオートというように、競馬・競輪・競艇オートレースという4つの公営競技、いわゆるギャンブルがあります。よくバクチは悪だというような世間の認識がありますが、決してギャンブルが悪いわけではないと私は考えています。生活する資金にも手を出してしまうなど、ギャンブルにのめりこんでしまうことが悪いことだと思うのです。

 落語の世界ではよくバクチに手を出して失敗をしてしまう人が出てきます。今回の演目は、そんなバクチに手を出して借金をしてしまう左官の長兵衛が主人公の文七元結の感想です。

 

 さてこの演目、前回の記事の最後に書いたように「百年目」に登場する旦那と番頭さんの関係によく似た二人が出てきます。そこを踏まえての文七元結の聞き所は、旦那と番頭さんが文七にお店の名前を思い出させようとするシーンです。

 

 文七元結は、腕はいいがバクチに手を出してしまい借金が方々にある左官の長兵衛と妻、その借金をどうにかしようと自ら吉原に身を売って家族を取り持とうとする娘のお久、佐野槌の女将や鼈甲問屋近江屋の旦那、番頭、そして文七と非常に多くの人物が登場する人情噺の大ネタです。この噺も悪い人はでてこない聴いていて気持ちが良い内容じゃないかと思います。聞きどころのシーンで文七がお店の名前を思い出せずにいるところに、番頭さんが「長い名前か短い名前か」「屋がつくかつかないか」などと聞き出しどうにか思い出させようとします。だんだんと思い出してきたところで文七が「佐野なんとかというんです!」 「佐野槌かっ!!」 と番頭さん思わず言ってしまいます。そのあとも旦那にぺらぺらと佐野槌の場所まで口走ってしまい挙句の果てには「・・・ということを万屋の番頭さんにきいたことがあります」とごまかす始末。堅物で通してきた番頭さんがひょんなことからこっそり遊んでいることが旦那にばれるという点で「百年目」の旦那と番頭さんに似ていると感じられるシーンです。

 

 笑いあり涙ありの人情噺「文七元結」、ぜひ聴いてみてはいかがでしょうか。